大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」RELAY COLUMN

スポーツ科学部

2025.05.13

ヒトの体の適応能力 vs. ダイエット

筆者:近藤衣美(スポーツ科学部講師)

1.食事を食べなければやせるのか?

 スポーツをする上で「引き締まった体格になりたい」、「体脂肪を減らしたい」と思う人も多くいることでしょう。体脂肪を減らすためには食事を控えなければならないと思い、食事を食べなくなってしまう人がいますが、それで本当に体脂肪が減るのでしょうか。食事量を極端に少なくすると体重を減らすことはできます。しかし、その中身を見てみると、筋肉量の指標となる除脂肪量が多く減少していることが少なくありません。これは、スポーツをする人にとってあまり良い状態であるとはいえません。

2.ヒトの体は環境に適応する

 ヒトの体は毎日の食事から摂取する栄養素でできており、体重や筋肉、体脂肪の増減はエネルギーの過不足によって起こります。要するに、食べ物から摂取したエネルギーが日常生活や運動で消費するエネルギーよりも多いと体重が増え、逆に少ないと体重が減ります。
 しかし、実際にはこれほど単純ではなく、摂取エネルギーが消費エネルギーよりも少ない状態が続くと、体はエネルギーが不足しないようにエネルギー消費量を少なくする適応が起こります。これが、一般に言われる減量の「停滞期」の原因だと考えられています。そこで、さらに食事量を少なくしていくと、生きていくために最低限必要な機能以外(日常生活動作、生殖機能など)で使用する消費エネルギーを抑えるように適応します。その結果、気力がなくなったり、体のさまざまな機能を調節するホルモンの分泌が低下したりし、女性では無月経の状態になり、疲労骨折や貧血などが起こりやすくなります。この現象は「スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs;レッドエス)」といわれ、スポーツにおける健康問題の一つに位置づけられています。さらに、このエネルギー代謝適応は、その後食事を食べるようになって体重が増加しても、食事制限前のエネルギー消費量に戻らないようです。そのため、無理なダイエットや過激な食事制限を長期間、または繰り返し行うと、やせにくく太りやすい体になると考えられています。

3.適当な食事で理想の体づくりを!

 今まで述べてきたように、無計画なダイエットや食事制限は除脂肪量を減少させるだけでなく、やせにくく太りやすい体へと変化させてしまう可能性があります。これを防ぐために、たとえ体重や体脂肪を減らしたいときでも「適当な食事」を摂る必要があります。「適当」という言葉には「ある条件や目的などにふさわしいこと」や「程度などがほどよいこと」などの意味があります。食生活はまさに「適当」に調整していくことが重要です。人それぞれスポーツをする理由や目標、スポーツの種類や生活スタイルはさまざまです。それぞれの生活に合わせてどのようなバランスで食事を摂れば最適な体づくりができるかは、今後も検証が必要です。興味のある人は、本学で一緒にスポーツ活動に「適当」な食生活を探求しましょう。

キーワード
  • 体重管理
  • 体づくり
  • 栄養素バランス

近藤衣美(スポーツ科学部講師)

専門はスポーツ栄養学であり、主にアスリートの体重管理に関する研究に取り組んでいる。スポーツ科学センター栄養部門長、レスリング部部長として学生アスリートの栄養サポートにも従事している。担当科目は「スポーツ栄養学」「栄養管理」「栄養教育」など。

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